【レビュー】高域が伸びてボーカルが美しい ~SHURE SRH940~

はじめに

DACやアンプの音色や癖を排除して音の素性を把握するため、iPhone12にエレコムのLightning 3.5mm 変換アダプタで聴いた。
SHURE SRH940の特徴を簡単に言えば、
・伸びる高域と近い中域
・高い解像度と抜群の透明感
である。

参考:【Amazon】SHURE SRH940

外観や仕様について

まずは、音質ではない部分に関してレビューする。

発売と金額について

SHURE SRH940は、2011年に発売された密閉型のヘッドフォンである。なお、すでに生産も販売も終了している。その後、2020パッケージ版というモデルも発売されたが、付属品やケーブルの仕様などに変更はない(こちらも同様に終売品である)。音質についてもチューニングが変わっているわけではないと思われる(少なくともそういうデータはない)。

なお、私が持っているのは2011年に発売されたモデルである。2011年モデルは赤い箱である。ちなみに2020年パッケージ版は、紫のラインが入った箱である。

新品の金額は26,800円だったらしい。中古買取では上限が8,000円ほどを漂っており、状態の悪い中古をフリマアプリで手に入れようとすると同価格帯で手に入れることができる。後述するが、この商品はヘッドバンドが劣化しやすいほか、アジャスターの部分が割れやすい。このあたりの劣化がない美品であればフリマアプリでも10,000円~15,000円ほどで取引されている。

付属品について

SRH940には、外箱のほかに、ハードケース、カールケーブル(3.0m)、ノーマルケーブル(2.5m)、変換アダプタ(3.5mm to 6.3mm)、予備用イヤーパッド(1ペア)が付属している。外箱はダンボールベースの簡素なものである。業務用だからだろうか。

ヘッドフォン側端子について

また、端子はねじ固定式の2.5mmという特殊な仕様である。名の知れたメーカーなどから販売されているリケーブルの選択肢は非常に少ない。ただし、Amazonなどではこの仕様のケーブルが安価に発売されている(ただしわたしは使ったことがないため紹介やレビューはできない)。

リケーブルとしては、ACOUSTIC REVIVEからRHC2.5SH-SFというケーブルが出ており(生産終了)、SRH940の化け具合には驚きの声が多い。低域が引き締まり、中域や高域がさらに伸び、各帯域の分離感や解像度が上がると言う(ぜひ試してみたいが、中古品を含めてなかなか出回らず、試すことはできていない)。

装着感について

その他として、装着感がそれほど良くないことがあげられる。まず1つ目に、HiFiMANのヘッドフォンやHD800等と比較すると、耳がすっぽりと収まらない。どこか音が抜けていくような中途半端な装着感である。ただし、これは私の耳が大きいためであり、そうでない人はしっかりと耳を覆ってくれると思う。

装着感に関してもう一点は、長く装着していると頭頂部が圧迫されて痛くなることである。これはおそらくほとんどの人が感じる部分だろうと思う。これは、頭頂部にあたるでこぼこの箇所が、クッション性ではあるものの硬めであるためである。露骨に痛くなる、というほどではないが、数時間つけっぱなしにしているとさすがに痛くなってくると思う。

耐久性について

各所で言われているように、耐久性や堅牢性が低いこともたしかである。これは本当に間違いない。実際、このヘッドフォンのネガなポイントとして指摘されていることの多くはこの点である(後述の通り、音の完成度は非常に高いがゆえに惜しいポイントである)。具体的には、頭頂部のクッションが素材的に劣化しやすい(加水分解しやすい)こと、ヘッドバンドのアジャスターが割れやすいこと、である。

音質のレビュー

ここからは音質に関するレビューである。

参考:【Amazon】SHURE SRH940

特徴について

まず、非常に鳴らしやすいことに驚いた。ここまで鳴らしやすいヘッドフォンは経験したことがなかったかもしれない。iPhoneで鳴らしているのに不足や限界を感じない。通常、エレコムのLightning 3.5mmアダプタを使ってiPhoneでヘッドフォンを鳴らすとき、音を引き出せていない感じがあったりと、どこか不足や限界を覚えてるものである。にもかかわらず、SRH940に関してはそれを一切感じなかった。鳴らしやすさは特筆すべきものである。

次いで、SRH940は密閉型ヘッドフォンであるものの、開放型と錯覚するほどには音抜けが非常によい。音場自体はそれほど広くなくスタジオモニターらしさがあるが、音抜けの良さゆえに空間は広めに感じる。また、後述するが、曇りや篭りは全く感じられず、解像度の高さや壁のない透明感もストレートに感じられる。

一方、音色は明るめ、音は硬めで透明感がある。ウォームかクールかでいうとクールであり、ドライな鳴り方である。曇りや篭りは一切感じられず、一音一音がはっきりくっきりと明瞭に鳴る。明るく硬いと言っても、押し出しが強い元気な音とは異なり、あくまでもスタジオモニター/スタジオリファレンスの名の通りクールで分析的な音であり、音に濃密さや艶はほとんどない。また、余韻の表現にも長けていない。繰り返しになるが、一音一音がくっきりはっきりしており、スピード感のある音である。聴いている印象としてはすっきりあっさりしており、清涼感や爽快感を感じられる。

参考:【Amazon】SHURE SRH940

高域について

すっきりあっさり、クールに伸びていく。刺さりなどはなく、「高域は無理して頑張って鳴らしていますよ」感がない。音色の明るさも相まって、綺麗に伸びて違和感なく聴くことができる。また、高域は少し前に出てくる鳴り方をしており存在感がある。ただし、上述の通り、「押し出しが強い元気な感じ」ではない。

引っかかるポイントとしては、中高域に分類される音が複数重なったとき(ピアノとトランペットが同時に鳴るときなど)や、高めの中域と高域が重なったとき(例えば、女性ボーカルとシンバルが重なるときなど)に双方の音がごちゃついてしまう点である。単音の表現には長けているものの、同帯域で音が重なると、若干の刺さりと、被ることによってそれぞれの音が溶け合ってしまって区別のしづらさが発生するように感じる。悪く言えば、重なったときのそれぞれの音を分けて聴くことが難しく、双方の音がつぶれてしまい曖昧になってしまう。音数が少ないときなどは一音一音をくっきりはっきりと鳴らすことができているだけに、音数が増えたときのごちゃつきは気になってしまう。結果、ロックやメタルと言った早いテンポの曲にはあまり向かないヘッドフォンであるように感じる。また、テンポが速くなくとも音数が重なる場面が多いオーケストラなども決して得意ではないと思う。

中域について

高域の伸び、透明感と並んでSRH940の推しポイントが中域である。鳴る位置がとても近いだけでなく、再現性という意味における解像度が非常に高い。使い古された表現ではあるが、SRH940で聴く女性ボーカルなどは圧巻である。特に、トラック数の少ない、アコースティック構成でしっとりと歌い上げるようなスローバラードの女性ボーカルもののきれいさには本当に感動した。例えば、ピアノ、ヴァイオリン、ボーカルで構成された曲などは、ピアノやヴァイオリンのきれいな伸びの前方にボーカルが位置しているような空間が見える。本当に鳥肌ものである。ただしどうしても、高域と被ったときにごちゃつき(音がつぶれてしまう点)があるということは先に述べた通りである。

低域について

深いところまでしっかり出ている。総評としてはフラットと表現していいと思われる範疇ではある。ただし、若干の低域の存在の強さに意識を持っていかれて気になってしまう(量感が多い)。低域しか聴こえないとか低域が他の帯域を邪魔しているとまでは感じられず、ひとえに低域過多とまではいかないものの、もう少しだけ量感は抑えめでもいいと感じた。そしてさらに気になる点は、量感が多いことに加えて、低域が若干ぼやっと膨らんでしまうことである(価格を考えれば非常に健闘しているが)。それでもよくある低域のふくらみのように、だらしなく膨らんでいるほどではない。量感が多くても引き締まったタイトな低域であれば良いものの、高域と中域それぞれの完成度の高さを考えると低域には改善の余地があると感じた。

おわりに

名機である。手に入れてから売却に至らない数少ないお気に入りである。

参考:【Amazon】SHURE SRH940

悲しいことは、生産/販売いずれも終了しているということである。いまや中古でしか手に入らない(わたしは運よく新古品を手に入れることができた)。SRH1540など上位モデルは現行品として存在しているものの、この機種の後継機というものは存在していない。耐久性の観点では課題しかなく、低域の質や、音数が増えたときの処理には改善の余地があるものの、総じてほとんど文句はない。特に、アンダー30,000円という価格を考えれば音質クオリティは秀逸である。

本レビューで、自分が好きな音の鳴り方に近いかもしれないと思われる方は、どうにか手に入れていただきたい。

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