まだイヤホンにもそれほど詳しくなく、FitEarというメーカーも存在くらいしか知らなかった頃、MH334 Studio Reference(以降MH334SR)が中古で入荷したタイミングに遭遇した。カスタムという未知の世界にもかかわらず、試聴に行った。期待はしていなかった。
その前に使っていたイヤホンにはLegend Xなどがあったし、日本産メーカーに対しては、どこか海外主要メーカーと比較すると全水準において足りてない部分があるという印象を抱いていた。
まず、ありえないレベルで耳にフィットした。これが俗に言うシンデレラフィットか、と思った。音は、めちゃくちゃいい、とすぐにはならなかった。
ただし、もともとボーカル好きなのもあって、すべてが及第点を達成していることはわかった。そしてどこか、際立った個性はないが実家のような安心感、みたいな心地よさを覚えた。結局、これも運だと思った購入に至った。
帰りの電車からさっそく聴いた。ますますのめり込んだ。人が良いと言っているとか、この金額のこれを使っているんだといった見栄やプライドなくして、はじめて自分自身が心の底から良い音だと思った。MH334SRは大切にしようと思った。
結局その個体は、また一時のつまらない、非本質的な見栄やプライドのために売ってしまったが、別の個体が手元にある。ほかにも手元にはMH335DW Studio ReferenceにCable 009をつけた組み合わせがあるが、MH334SRはMH334SRで、Cable 007と一緒に使う機会は多い。なんだかんだで、何かとこいつに戻ってくることが多い。
基本はくっきりはっきりあっさりさっぱりでクールソリッドタイトなモニター調の音である。良く言えばバランスが良い、悪く言えば際立った個性がない、となるだろう。また、モニター調といっても、MDR-EX800ST(SONY)のように極度に乾いた寒色ではない。
また、楽器や声の音にイヤホン独自の特異な味付けがあるわけでもない。”モニター調”と言ったのは、あくまでも、帯域的な意味と音色的な意味におけるバランスの良さであり、リスニングとして非常に楽しい音である(実際わたしは楽器を弾く側ではなく、普段の音楽鑑賞でリスニングモデルとして楽しんでいる)。
これだけでは、質の高い”モニター”イヤフォンで終わってしまうかもしれないが、MH334SRを愛してやまない理由はほかにある。繰り返すが、MH334SRは、基本的にはくっきりはっきりあっさりさっぱり、クールソリッドタイトな音である。
高域寄りか低域寄りかでいうと低域よりのフラット(かまぼこ)であり、暖色か寒色かでいえば寒色であり、迫力か繊細かでいうと繊細よりの中庸だと思う。厳しい言い方をすると、こういう傾向の鳴り方をするイヤホンはほかにもあるように思う(実際、たしかそれが理由で売却した記憶がある)。
似たような音を出すイヤホンが他にもある中で、MH334SRが好きなポイントは、くっきりはっきりクールソリッドをベースとしていながらも、角に丸みや温かみがあることである。
が、最終的に耳に届く手前で、その打力が一瞬和らいで適度な温かみと丸みを帯びるのである。それが他にはない、MH334SRの魅力であると感じている。くっきりはっきりクールソリッドというだけではないそこに、温度が感じられる。
どのような音源やジャンルであれそつなく鳴らしてくれるし、百点ではもちろんないけれども水準は非常に高い。やはりボーカルが好きな人がこの機種を気に入ることが多いだろうから(わたしもそう)、ボーカルのいない音源(オーケストラなど)を聴くとやはりもったいなさは感じる。
また、硬質でクールでソリッドではあるものの、VISION EARSのようにキレやスピードにそこまで長けているわけではないので、メタルやハードロック、ラップ/ヒップホップなど、テンポが速くトラックが多い音源はそこまで得意ではないように思う。
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