はじめに
Xで、本機はSHURE SRH940と帯域バランスが似ていて密閉型と開放型で両機ともに持っているみたいなポストを見かけた。イヤホン店や価格コム、その他個人ブログ等のレビューを調べて始めると、たしかにこれは好きかもしれない、と直観的に感じた(もっとも、SRH940と似ているというレビューは見かけなかったが)。もともとヘッドフォンは開放型を使っていて密閉型に対しては音がこもる等の偏見を抱いていたこともあって、HD 400 PROに対する期待は高まった。
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仕様に関するレビュー
まずは、付属品や端子、装着感等、音以外の部分に関する解説である(ただし簡単な解説にとどまっている)。ちなみにHD 400 PROは開放型で、ケーブルは片出しタイプのヘッドフォンである。
外箱や付属品について
簡素でSENNHEISERらしいパッケージである。この点はSHURE SRH940と同様で、業務用ヘッドフォンであるがゆえなのか、質素な感じである。本体以外の付属品は、①3.5mm端子のカールケーブル(3.0m)、3.5mm端子のストレートケーブル(1.8m)、3.5mm to 6.3mm変換アダプタ、冊子類(クイックガイドとセーフティガイド)である。
ヘッドフォン側端子について
この端子に正式名称があるのかはわからないが、端子は4極2.5mm(ロック機構付き)である。HD650やHD800のシリーズとは異なる端子であり、SENNHEISERは共通端子で統一はしていない。
装着感について
装着感は良好である。SHURE SRH940比で、イヤーパット自体が大きい。私の耳は大きめであるが、ジャストサイズといった具合である。なお、HiFiMANシリーズと比較するとサイズは少し小さい(HiFiMANシリーズは耳が大きい私でもすっぽりと余裕をもって覆ってくれるサイズ感である)。
音質に関するレビュー
続いて、音質に関するレビューである。鳴らしきれるか不安はあったものの、音の素性を把握するためにiPhone12にTANCHJIMのSTARGATE)を用いて視聴を行った(この変換アダプタによる若干の音質の変化についてはご容赦いただきたい)。なお、ケーブルは付属のストレートケーブル(1.8m)を用いた。
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音色について
音色についてはフラットであると感じる。SRH940やT1(beyerdynamic)は音色は明るく、例えばAUDEZEは暗いと個人的に感じているが、HD 400 PROは明るくも暗くもない。この点、SENNHEISERというメーカーはさすがである。HD650の音色は暗くどんよりしたものであるが、HD800はどちらかというと明るい部類である。かといえばHD 400 PROの音色は中庸である。メーカーなりの音というものがあると思うが、帯域別の量感やバランスに限らず、音色の明暗も機種ごとに上手に調整ができている。
クールかウォームかと二項対立で問われればクールである。しかし、クールをベースにしつつも、わずかなウェットさやウォームさがある。例えばMDR-CD900STのような冷たく刺さるような無機質な感じもなければ、MDR-7506ほどクールさや透明感に振り切っているわけでもない。反対に、SENNHEISER HD650のように明確にウォームでどんよりしたでもなく、ウェットさやウォームさというのは、あくまでもほんのりとわずかに感じられるくらいである。このおかげで聴き心地の良さがあり、音楽が違和感なくスッと入ってくる。
音場について
狭くもなければ広くもない。モニターヘッドフォンであるがゆえ、あえて言うなら狭めであると感じられるが、聴いていて「狭い」とは感じない。これは、HD 400 PROが開放型であるため、という理由もあるかもしれない。わざわざ「音場について」という見出しを用意しておいてなんだが、音場については特に気になることはなく、「広い」とも「狭い」とも意識が向かない(ただし、HD 400 PROが開放型ということもあり、どちらかというと広い)。
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高域について
過剰/不足なくよく出ている。しかし、前に張り出してくるような出方ではないし、全体バランスの中で高域が量感的に多いわけではない。T1やHE1000 UNVEILEDのように、高域だけ際立って綺麗に伸びているわけではないが、高い水準で”普通に”出ているし、音色に不自然さや量感に不足も感じない。違和感や引っかかる部分は何もない。
中域について
ボーカル域については、ヘッドフォン一般の中では近い位置でなり、鳴り方に不足も過剰もなくしっかりと出ている。しかし、近さも解像度もSRH940ほどは出ていない。また、beyerdynamic DT 700 PRO Xと比較すると同等か、それよりもほんのわずかに出ていない、といった具合である。ただし、ボーカルが奥まっていたり楽器に埋もれていることは決してなく、ボーカル好きが買ってもまったく問題のない水準である。ギター等、中域に相当する楽器も、量的な過不足や帯域別の偏りもなく自然な音色を再現することができているように感じられる。
低域について
開放型にしては普通に出ている部類であり、スカスカであるとは感じない。一方で、量感が多いこともなく、あくまでも自然なバランスである。良い意味において、低域に意識が向かず、各帯域の総合としてのバランスの良さに意識が向く程度にとどまっている。DT 700 PRO XやSRH940と比較すると、低域に量感はない。むしろ、それら二機種は少し出すぎている感じがあるため、聴いている中で「低域がよく出ているな(ほんのもう少し控えめでもいい)」と感じるときがある。HD 400 PROは低域が出すぎていないという意味において本当にバランスが良いと感じるし、そのDT 700 PRO XやSRH940よりもフラットである。DT 700 PRO XやSRH940に限らず、モニターヘッドフォンと言われるものを多く試してきた中でも、これはかなりニュートラルでフラットであると思う。
ちなみに、もしもより低域を見たいということであれば、beyerdynamic DT 700 PRO Xが適しているだろう。量感が出ているだけであればSRH940でもよいが、質を伴った高水準な低域を中心に見たいという場合にはDT 700 PRO Xが良い。
一方で、もしもボーカルや高域をより鮮烈に感じたい、という場合であればSHURE SRH940が適していると思う。
総評
一台だけ、フラット/ニュートラルでヘッドフォンを持つとしたら本機になると思う。突出した個性がないため、悪く言えば地味ではある。ただし、総合点が高くどんなジャンルもそつなくこなすことができる安心感がある。音色の明暗もニュートラルであり帯域別に見ても量感や出方に偏りがない(例えば「低域の量感が多い」や「ボーカルだけ非常に近い」などがない)ため、音を知る際のリファレンスとなる一台である。
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おわりに
本レビューの直前までSRH940を聴いていた。SRH940の音が自分の中でリファレンスに塗り変わろうとしていたところでもあった。そんなときにHD 400 PROを聴き始めた。一聴した時の初速の感想は”地味”であった。が、そのまま音楽を流していると、それは決して”劣っている”わけではないことに気が付いた。前述のように、帯域バランスが秀逸で特筆した個性がないのである。良い意味で、感想が出なかった。逆に言えば、それまで聴いていたSHURE SRH940は個性に満ちた音であることを、この耳をもって実感する機会にもなった。個人的にはボーカル域が高解像度で近く鳴るものが好きだが、HD 400 PROは音の元尺器になると感じたし、立ち返るべきリファレンスになるとも考えた。そのくらい、自然でナチュラルでニュートラルでバランスが良いのである。購入に至った。
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